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良いご旅行を
The text was written only in Japanese.
随分と前のこと、どこの路線だったか失念したが、電車のアナウンスが面白くて話題になった車掌さんがいたと記憶している。テレビで取り上げられたり、webの記事になったりと、短い時間であったがちょっとしたネタのようになっていた。ここ横浜でも、話題にこそならなかったが、デジタルな車掌さんがいて、その電車にあたるとちょっと楽しみになっていた。特にアナウンスが面白いわけでもなく、単に話し方がデジタル音声のように聞こえるだけなのだが、そのデジタルぶりは、デジタルではこうは出来ないだろうというレベルで、ほとんど抑揚もリズムもない徹底のしかたであった。恐らくは、意識してではなく、自然にそうなっていたのだろう。
どこの国にも名物車掌さんはいるらしく、お堅いフランスの国鉄SNCFも例外ではない。その車掌さんは、もったいぶった言い方でマダム・マドモアゼル・エ・ムッシューと始めた。英語で言えば、Ladies and Gentlemen, Boys and Girlsに近いか。フランスでは、たとえ未婚の女性と思ってもマドモアゼルとは言わない。大人の女性としてマダムと呼びかける。だから、マドモアゼルを入れた言い方は、丁寧であると同時にBoys and Girlsを追加した言い方にも似ている。車掌さんの名前は、フランソワ。自分で名乗っているので間違いない。この車掌さん、話の途中で何度でもこのマダム・マドモアゼル・エ・ムッシューと呼びかける。何かを伝えるたびに「ご乗車の皆様」というわけである。いちいちもったいぶってゆったりと話をしながら、次第に自分の世界に乗客を巻き込んで行くのだ。停車駅をひとつひとつ丁寧に読み上げ、食堂車の案内を事務的というよりプレゼンテーションする。雑誌をめくりiPhoneでメールを打ちながら、アナウンスなど聞いてもいなかった乗客が順番に顔を上げ始める。そしていつの間にかクスクス笑いが聞こえ始める。どこかの航空会社が、法律で決められた安全のための説明を誰も聞いちゃいないというので始めた出来の良いビデオというのがあったが、フランソワは話術だけで注目させるのだ。
「ご乗車の皆様、次に停車するのはマッシーでございます。」「ご乗車の皆様、本列車には食堂車がございます。食堂車では軽食に加え、香り豊かなコーヒーをご用意して、皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。」「ご乗車の皆様、ご不明な点がございましたら…」

そんな調子で話は続く。車内では携帯電話をマナーモードになどと単純には言わない。マナーモード(英語ならサイレントモード)と言う部分は、「お席では、サイレントモードに」と言いながら、まるで他の人に聞こえてはまずいとコソコソ話でもするように小声になる。ここまでくれば、大抵の乗客はアナウンスなどこれっぽっちも聴いていない風を装いながらもしっかりと耳をそばだてているはずである。そしてクスクス笑いが始まるのだ。
このアナウンス、しっかり最後まで手抜きはない。
「ご乗車の皆様、ご不明な点がございましたら、遠慮なくお声をお掛け下さい。もし、フランス語に不案内でしたら車掌にご相談ください。もし、フランソワとちょっと話してみたいということでしたら、ご遠慮なくお声をお掛け下さい。5分程度でしたらお相手になります。では、良いご旅行を。」
Wordless Wednesday : crape myrtle
A day in a bookshelf ~本棚の陰から
The text was written only in Japanese.
本を選ぶことは旅先を選ぶことに似ている。エメラルドグリーンから透明なブルーへの淡いグラデーションの海とパステルピンクの壁が輝くホテル、明るい赤と白のパラソル、サングラスをかけて寛ぐ人々、そんな写真を雑誌で見つけて次の休暇はカリブにしようかと考える。パラソルに付けられたスポンサーのビール会社のロゴさえもが旅に誘う。そうやって想いを巡らすと同じ様に、カリブの文化を記した本が読みたくなったりもする。カリブの海を舞台にした海賊小説はどうだろうと考える。北アフリカの朽ちたローマの史跡の映像を見ながらローマ史を知りたくなる。たくさんのひまわりを見てアンダルシアを想像するように、本の表紙の暗い影に中で自分を待ってくれているスペクタクルを思い描く。
旅行代理店に並べられた世界中の魅力的な旅先をこれでもかと主張するリーフレットを眺めながら、ふと、思っても見なかった旅先のリーフレットを手にするように、新聞の片隅にあった小さな広告に普段は読むことのない作家の小説が読みたくなることもある。こんな食事がしてみたいというのも旅の立派な理由になる。世界中の食材が手に入るようになっても、産地で食べる食事は味付けも調理法もサーブの仕方さえも違う。だから、原語で読みたくなる本もあれば、ニュアンスや音までも流麗に訳した翻訳で読みたくなる本もある。母語でないがゆえに分からない単語や表現に悔しい思いをするのは、旅も翻訳も同じである。かつて、真面目な技術論文の中に亜空間旅行への言及があるのを見つけ、そんな非現実的なことまで受け容れるとは懐が広いなと感心したことがある。だが、後になってそれがスタートレックへのオマージュだと気付いた時には、どうして最初にわからなかったのかと悔しい気持ちにさえなった。そんな風に、食材のちょっとした違いも店先の会話も、もう少し分かればと気になるものである。自分の慣れ親しんだ味で食べたい時もあれば、地元っ子が味わうそのままで驚きたいこともある。それが旅の楽しみであり、読書の楽しみであろう。
今、あなたはセーヌ川沿いの歩道をのんびり歩きながら風景を楽しんでいる。ふと見れば、古書店が軒を並べる一画がある。暫く歩けば小さな市場もある。セーヌ川そばの古書店をめぐり本をのんびりと探す人びとを見て、朝市でアーティチョークを前に話し込む人を見て、フランスの生活はどんなだろうと思うなら、
それでも住みたいフランス (未紹介)
飛幡祐規 著
を手にとってみるのも良い。フランスの良いところも悪いとこも愛情たっぷりに描かれている。都会が苦手というなら南フランスの田舎はどうだろう。
プロバンスの12か月 (未紹介)
ピーターメイル 著
は、のんびり読むのに最適だ。ほんの少しだけしつこくない程度のスパイスを加えた文章が、プロバンスの田舎暮らしを鮮やかに描き出す。住んでみなければわからないのだろうなと少々悔しくもあるが、そのくらいがちょうど良い。住んでしまえば主観が入ることは避けられない。本は、読者に想像する自由を与えるものだから。
ヨーロッパに住む人は、学校でラテン語を習ったりローマ史を習ったりするのだろう。会話の中にカエサルの言葉を入れたりすると、知っているのかと尋ねられたりもする。そりゃ、賽は投げられたくらいは知っている。だが、越えた川がルビコン川と知っているかどうかは興味があるかどうかによるかもしれない。パリがローマ時代以前からの集落であって、カエサルが駆け抜けたガリアの一部であるなど、アジアの片隅からは遠い話だ。そうであるに違いないが、北アフリカや中東、あるいはスペインやフランスに残るローマの史跡を見ると、ローマ時代がどんなだったか知りたくもなる。さすがにカエサルの
ガリア戦記 (未紹介)
ユリウス・カエサル 著
は最初に読む本でもないが、辻邦生の
背教者ユリアヌス (未紹介)
辻邦生 著
なら史実をベースに脚色された大河小説として楽しむことができる。もちろん、塩野七生の
ローマ人の物語 (未紹介)
塩野七生 著
なら読みでもある。そうやってローマを旅しはじめたなら、
あたりも読んでおきたい。飛行機で飛び回るよりもひょっとすると速く世界一周できるに違いない。もちろん、ここでの世界一周はローマ時代の話。ローマが事実上のCaput Mundi(世界の首都)だった頃の世界は、今より物理的には少々狭かった。だが、狭かったといっても飛行機があったわけではない。ならば、随分とお得ということだろう。ついでに言えば、時間旅行も付いてくるのだから、本の数冊はかなり安い。
意外に意識は無いが、イギリスもかつてはローマの一部だった。さすがのローマもグレートブリテン島全てを支配することは無かったが、北と南を分ける防城を作ることはしたらしい。ローマ世界とその外の世界の間には必ず砦を築いた彼らだから、それはあたりまえのことだっただろう。とはいえ、補給線の伸びたローマの果ては長続きしない。そうして、中世世界になって行く。
は、歴史書では無いが、そんな世界にも我々を連れ出してくれる。
折角ヨーロッパツアーを始めてみたなら、分かっているようで分かっていない十字軍と共に旅するのも面白い。今だから出来る旅というのがあって、当時だったらとても同じことをできそうにない。
十字軍騎士団 (未紹介)
橋口 倫介 著
あたりでまずは全体を把握したほうが身のためである。ただ、これを読んで決意を固めたなら、次に読むのは
アラブがみた十字軍 (未紹介)
アミン マアルーフ 著/牟田口 義郎、 新川 雅子 訳
だろう。何事にも両面がある。世界を知る時には重要なプロセスだ。
セーヌ川沿いを散歩しているうちにいつの間にか時空を超えてしまった。パリに戻ろう。戻ることなど簡単なことだ。本棚から別なものを抜き出してくるだけだ。途中で100年ほど前のパリに立寄るのも悪くない。ふたつの世界大戦に揺れ動くパリ。万博に湧き立つパリ。エッフェル塔の建設。たとえ時空の旅人であっても、そこに住む人々、世界の都に移り住むひとの目を通して旅は出来る。
Paris France
Gertrude Stein 著 (Peter Owen Modern Classic)
あるいは
フランス組曲
イレーヌ ネミロフスキー 著/野崎 歓、平岡 敦 訳
そんな本を引き出すだけで良い。
少しヨーロッパに長居しすぎたかもしれない。ドイツの古城をライン川から眺めてみたいし、ハンザ同盟の街並みを見ながら
道化師 (未紹介)
トーマスマン
でも読むのも悪くないが、そろそろヨーロッパを離れるべきだろう。世界はまだ広がっている。まだ見ぬスペインは
あたりを読むことにして、コーヒーで世界を知るのはどうか。
最近、コーヒー豆の原産地を見ると、かなりの確率でベトナムと書いてある。コーヒーと言えば中南米かアフリカのイメージが先にくるが、ベトナムは意外に知られていない。だが、ベトナムはまさにいわゆるコーヒーベルトの中にある。バードフレンドリーとかフェアトレードとかそれ自体の賛否はあるだろうが、少なくともベトナムのコーヒーはそうした政策的意図とは切り離せないものとして生まれたものとされている。世界をどう変えるかなどと大上段に構える必要はないが、たとえ一面的であってもコーヒーひとつからベトナムの抱えていた問題を知ることで旅は少し違ったものになる。
コーヒーの真実―世界中を虜にした嗜好品の歴史と現在
アントニー ワイルド(Antony Wild) 著/三角 和代 訳
は、どうも納得のいかないところも多いが、分かりやすい旅の地図にはなるだろう。ビルの設計をしている知人がかつて「地図はあくまでも概念だから、地図と実際の道が違っていてもよい」と言い切って道に迷っていたことからすれば、そんなものだと割り切れる。初めての土地を旅するには、地図はその土地の一面を表す記号であれば良い。初めての場所なのだから、たとえ地図が科学的に正しく描かれていても、迷う時には迷うものなのだ。もっともビルの設計が、あくまでも概念だとすると、ちょっと不安を感じないでもない。その事だけは、知人のためにも告白しておかなければならない。
たとえ社会的な背景がそこにあったとしても、そうしたことを原動力に進むアイデアにはポジティブなエネルギーを感じものである。休みごとに世界中を旅してまわっている同僚は、最近は行くところがなくなったのか、はたまたそれが好きなのかはわからないが、たどり着くだけでも2日はかかりそうな場所ばかりを訪ねている。お土産屋さんがなかったから乗り継いだ空港のお土産ねと言ってベルギーのチョコレートを買って来たりするが、お土産屋さんがないような場所であっても、戻ってくるとすっかり元気な様子で、なにかしらエネルギーをもらってくるのだろう。エネルギーはアイデアを生む。
世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある (未紹介)
シンシア スミス 著/槌屋 詩野, 北村 陽子 訳
バカンスに美術館巡りを計画する人はそこそこいても、科学博物館巡りを組む人は少ないだろう。ずいぶん前に、ルーブル、オルセー、ハンブルク、ノイエ/アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン)…などと順番を決めて大きな美術館ばかりを回ろうとしたが、どうやってもベルギーには立ち寄れないとか、小さなところにも寄りたい場所があるとか、いろいろと考えるところがあって諦めたことがある。それでも美術というのはよくしたもので、いつ頃の作品だとか、ナントカ派だとか、画家の生い立ちがどうだとか、そんな事は一切知らずとも気に入ったかどうかだけで見て回ることができる。この色の組み合わせが綺麗だなどと面白がるだけでも良い。時間が余ったら美術館に立寄るくらいでも十分楽しめる。ところが、科学博物館とか文学館となると、多少頭を回転させなければならない。フーコーの振り子など、余程根気がないと動きが分からないだろうし、パタンとマーカーが倒れても次の瞬間には何故そうなったかを考えなければならない。多くのひとは振り子が揺れているのを見て満足する。あるいはトーマスマンの作品をいくつか読み、作家や作品に興味をもっていなければ、ブッデンブロークハウスでその佇まいや原稿を見ても、ただ、ふーんとなるだけである。以前、X線を扱ったことがあるので観光でヴュルツブルクを訪ねたついでにレントゲンの家なるものにも立ち寄ってみたが、別段壁の向こうが透けて見えるわけでもなく、生い立ちにでも興味がなければただの建造物であった。
そうやって考えてみると、絵画と違って、科学技術や思想・哲学といった領域は歩いて巡るというにはあまり向かないのだろう。旅のコースをある程度決めたら、その範囲で可能なところに立ち寄る程度が好ましい。最近話題のナントカみたいなものをいくつか回ろうというのは、むしろ苦痛となりかねない。ところが、一方でそんな類の本がないわけではない。そこがバーチャルツアーを可能とする本のよいところで、
は、半分でも興味があれば、お得な旅と言えなくもない。そういえば、
The Zen of Steve Jobs
Caleb Melby, Forbes LLC, JESS3
もカリフォルニアの空気を吸ってみるより、ずっとそれらしい雰囲気を味わえると感じるかもしれない。
頭の中を旅することになる次も面白いだろう。結論を求めるむきには少々いらいらするかもしれないが。
妻を帽子と間違えた男 (未紹介)
オリヴァー サックス 著/高見 幸郎、 金沢 泰子 訳
カリフォルニアまで来たものの、アメリカ大陸をスキップしてしまうのも心残りである。あまり紹介できることもないが、少なくとも1冊だけは挙げておきたい。大江健三郎や中上健次にも影響を与えたとすれば訪ねてみたくなる。
予告された殺人の記録 (未紹介)
G.ガルシア=マルケス(Gabriel Garc’ia M’arquez)著/野谷 文昭 訳
の街は実在するらしいが、どこまでも暑くて重みを感じる風が吹き続けるカリブのリゾートではない現実的な生活という点では、どこかひとつの街ではなく、だれもがそれぞれに知るどこにでもある街ということだろう。なお、架空の都市ということであれば
もまた、訪ねるに値する街だろう。ただし、訪ねる時は覚悟をもって。
日本に戻るころあいになった。
住む場所となると、案外旅先に困る。行ったことのない場所を自然と探してばかりいて、ここは大分前だから忘れてるとか、ここは雨で立ち寄らなかったとか、そんな言い訳を見つけてホッとしたりする始末である。知人が訪ねて来て、「あそこには行ってみたいと思っていたが叶わない。あなたは、さほど遠くないところに住んでいるのだから何度も行っているだろう。羨ましい。」などとつぶやいたら格好のチャンスだ。何度も行ったことのある見慣れたいつもの場所は、突然、行ってみたい旅先リストの上位に急上昇である。「今度、ご一緒しましょう。」などと即座に答えかねない。ところがである。その後が困ったりするのだ。はて、横浜開港の時には果たしてペリーは上陸したのかなどと余計なことを考え始めて、自分が案外知らないことに気付いてしまう。日光の杉並木を見ながら、例幣使街道との違いを問われ、答えに窮する。まして、生まれ育った街の説明を間違え、客人にやんわりと訂正でもされたらどうにも逃げようがない。得てして、興味を持った客人のほうがずっと詳しいものである。やがてその客人が近所に移り住み、その土地の人となったなら、その時には素直に教えを乞うたほうが良い。地元に住んでいる者がその土地を一番知っているなど時に幻想みたいなものだから。
であれば、こんな本は読んでおきたい。分からないところがあったら学びなおそうなどと考える必要はない。それ自体が鑑賞に値するものだから。
百代の過客 日記にみる日本人
ドナルド・キーン 著/金関 寿夫 訳
もし、どうしてこんな作品がと感じたら
も悪くない。戦争時代とその後の日本を歩いて回るのは少しばかり気が重いこともあるが。
さて、美しい日本語で書かれた日記を読めば、次は未来の日本語も読みたくなる。もちろん、それにはふたつの目的地があって、その様相はだいぶ異なっている。未来のひとつが見たければ東京の湾岸地域を見ても良いだろうし、渋谷の交差点を渡ってもよい。未来のロサンジェルスのイメージが「ブレードランナー」で千葉と重なりあったように、裏通りの旧い建物とその先にあるおしゃべりな自動販売機に未来を見ることもある。決して新語が溢れるネットワークの広がりが未来の日本語ということでもない。制約のある言語の海から新たな表現を探し出すこともまた伝統の中に揺らぐ未来でもある。
を開いて見ればよい。それはそこにある。
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Weekly Photo Challenge: Containers
Looking into the small white box in a rainy day, it seemed a container of bright sunny days; dazzling reflection from the sea, colourless fragments of the sea shore and uncertain memories inside the box.
Where shall we go this summer? This slightly pitted old suitcase takes me to an imagination of coming summer vacation. Still rainy.
If you want to open the container of sunny days, I thought, it must be bright, taken with high-key expression.
This is a part of Weekly Photo Challenge by The Daily Post.



