Bonne journée, Photo

月桃

 無数の歯車がガタガタと時を動かす昼間の時間が立ち止まる音を立てるようにリュウキュウアカショウビンがキロロロと声を響かせ、日の沈んだ後の漆黒の湿気がスッと溶け落ちる様にヤエヤマヒメボタルがつぼみのような光を揺らし始めるうりずんの頃、月桃のオレンジ色に輝く花がうつむきながら開き始める。それが八重山の一番良い季節らしい。暑過ぎず過ごしやすい季節だからと伝えるガイドブックも、天気がぐずつきやすい冬が終わり台風の時期にはまだ早いからと説明するWebサイトもその通りだが、何よりも静かでエメラルド色に染まる海と頭のてっぺんからつま先まで照らす太陽がそこにあるからでもある。

 何度か沖縄を訪れたことがあるというのに、季節のことなどまともに考えたことなどなかった。少なくとも数日を過ごすことのできる休暇といつもより幾分多くかかる費用とを算段して日程が決まり、それからその季節はどうなんだろうと考える。ホテルのとれたこの日あたりは西風が寒くないかな?この頃はそろそろ台風の季節だよね。もうパイナップルは終わりかも。いつも順番が逆なのだ。こんな季節に行きたいなんて計画するのは簡単ではない。

 そもそも沖縄本島と八重山諸島の区別だってあやしいものだ。那覇から400kmも離れた石垣島に行くというのに、那覇は明後日から雨らしいなんて会話をしていたりもする。八重山諸島はそれほど日常を過ごす横浜から遠く離れた場所なのだ。楽園とは現実から遠いもの。たとえそこに生活する人が様々な現実に直面していようとも。

 ベタベタと首の周りにまとわりつく海風と月桃色に染まった島陰とが曖昧につながって、やがて島の深緑の土に染み込んでいく夕暮れ。旅人は日常を忘れ、世話をやいてくれる島の人たちを頼って一日を終えようとする。美しい季節にここにいられて良かったと、独言るのは都会の慣わし。明日を生きる術。

月桃、ショウガ科ハナミョウガ属、沖縄ではサンニンとも。台湾でも月桃らしい。
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Floral Friday #120


横浜や鎌倉の紫陽花はすでにピークを過ぎつつあるようで、ガクアジサイやヤマアジサイのつぼみはもう見かけない。2月から4月までの記録的な暖かさ(というより暑さ)が原因だろうということだが、もちろん真偽はわからない。春バラや桜と違って日陰ならひと月くらい咲いているから6月中旬くらいまでは雨の紫陽花を楽しむことはできるのだろうけれど、今年は6月下旬にもなると痛みも目立ってくるのだろうか。きっと7月上旬には剪定だろう。

欧州の紫陽花は夏の花だからもっと長く楽しめるのだが、この日本の梅雨時の紫陽花だからこその瑞々しい美しさもある。久しぶりに鎌倉でも歩こうか。

先週(6/2)に横浜の開港記念日と書いたが、記録的な大雨で雨天決行のはずの花火もさすがに中止となったらしい。翌日2日目(6/3)は午後になって晴れ。スタッフの懸命な排水作業などもあって、市民で賑わっていたとのこと。

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Mostly Monochrome Monday #306

It was only five years ago that I wondered what day of the week it was while walking down a road in the strong SoCal sun. It should be instant in aspect of astronomy but almost eternal for me, perhaps also for you.

南カリフォルニアの強い日差しの中、幹線道路沿いを歩きながら「今日は何曜日だったかな」と思い倦ねたのは、たった5年前のことだった。 それは天文学からすれば一瞬のはずだが、私にとってはほぼ永遠だ。そしてひょっとしたらあなたにとっても。

A Part of Mostly Monochrome Monday

Art, Bonne journée

波打つ昨日

実直にまっすぐ張られた架線と
波打つスレート屋根との隙間を
ゆったりと流れる雲と雲の間に、
冷たく銀色に冷えた夕暮れ時の月を見つけ、
雨と曇りの合間に忘れられた晴れを思い出した。
もうまもなく
地球上のどこかの水平線か
そんな捉えようもない何かに沈む太陽は、
薄汚れた雲の積み重なる向こう側に
おそらく、
たぶん、
きっと、
あるはずだった。
耳たぶのような
冷たく柔らかな刃物で
何時間も切り刻まれた初夏が、
紫陽花の上に逃げ出した羽虫のように転がった。
湿った腋の下に緑色の傘を抱え、
乾いた喉の上に赤茶色のコーヒーを流し込む
帰宅途上の色のない難民は、
次の通勤電車にまとわりつく風に、
誰もが思い出そうとしない昨日。