Art, Photo

紙片の宇宙

201503-121(written only in Japanese)

しばらく前に降った雪が、雪掻きの努力の褒美でもあるようにそこかしこに残り、冬枯れの木々の間に強くなった陽光が降り注ぐ森の中にその建物はある。コンクリートとガラスが光を反射し、自然とは相反するかのような造形は、思いのほか森と一体化して違和感を感じさせない。入り口近くの空間には、巨大な歯車の一部のような錆びた何かが時を止め、いずれ春の緑に覆われることを拒絶するかのようにじっとしているが、やがてその試みも無為に終わるのだろう。

だからなのか、その建物に入るにはちょっとした儀式がいる。明るい木々の間にかけられた橋が、道と建物を隔てているのだ。それは、本を読むことに似て、読者と本の世界を隔てる表紙を丁寧にめくるように、人は橋を渡らねばならない。そうやって、森に囲まれたその建物の中で、違う世界を感じることになる。

201503-123箱根の少しばかり分かりにくい曲がりくねった道を通った先にポーラ美術館はある。1900年頃の西洋絵画を中心としたコレクションは、国内屈指の充実したものとなっている。そのポーラ美術館で、3/29まで「紙片の宇宙」という企画展が行われている。藤田嗣治やシャガール、ローランサンなど、ポーラ美術館のコレクションや美術館が得意な画家が好きならもちろん、挿絵本好きにもお勧めできるいつもと少し違う展示である。なかなか見ることのない豪華本も展示され、普通の印刷でよいから買えないかななどと見ながらつい考えた。

あいにくとあと3週しか会期はないが、ちょうど春休み、箱根に本の扉をめくりに行くのも悪くない。

今週のWordless Wednesdayはポーラ美術館の写真を予定。

Bonne journée

ダイアローグ: 弾まない

201503-011Written only in Japanese

電車の中でぼんやりしていたり、道を歩いていて前を歩く集団があまりにゆっくりであったりすると、どうしても耳に入ってしまう会話がある。聞いては失礼だと思っても、聞き逃したいない話もあれば、聞きたくないのに聞こえてしまう話もある。

すっかり忘れていたダイアローグシリーズだが、先日、近くにいたふたりの会話を盗み聞いて、急に書くことにした。

「今日、じしんあった?」と先輩。
「んん〜揺れてた。」と後輩。そして沈黙。

何があったのか、会話の進まないふたり。浮かない表情で終始した会話は、会話の定義を見直す必要がありそうなほどに視線が交差しないままに消えていった。僅か数分。明らかに聞こえた会話はこれだけ。あとは小声でひとことふたこと。仕事の合間にする会話とはいえ、あまりに寂しい。

さて、「じしん」とひらがなで書いたのは変換ミスではない。ふたりが去った後でもそれが「自信」であったのか「地震」であったのか、未だ判然としないからである。打ち合わせの席での提案でもあって、出席者を説得できなかったようでもあり、午前中の小さな地震を確かめたようでもあり、その意図はなんとも分からない。ひょっとすると、会話するふたりの間ですら、会話が成り立っていなかった可能性もある。

そして、しばらくして思いあたった。会話である必要すら無かったのだろうと。