
実直にまっすぐ張られた架線と 波打つスレート屋根との隙間を ゆったりと流れる雲と雲の間に、 冷たく銀色に冷えた夕暮れ時の月を見つけ、 雨と曇りの合間に忘れられた晴れを思い出した。 もうまもなく 地球上のどこかの水平線か そんな捉えようもない何かに沈む太陽は、 薄汚れた雲の積み重なる向こう側に おそらく、 たぶん、 きっと、 あるはずだった。 耳たぶのような 冷たく柔らかな刃物で 何時間も切り刻まれた初夏が、 紫陽花の上に逃げ出した羽虫のように転がった。 湿った腋の下に緑色の傘を抱え、 乾いた喉の上に赤茶色のコーヒーを流し込む 帰宅途上の色のない難民は、 次の通勤電車にまとわりつく風に、 誰もが思い出そうとしない昨日。



