Art, Bonne journée

波打つ昨日

実直にまっすぐ張られた架線と
波打つスレート屋根との隙間を
ゆったりと流れる雲と雲の間に、
冷たく銀色に冷えた夕暮れ時の月を見つけ、
雨と曇りの合間に忘れられた晴れを思い出した。
もうまもなく
地球上のどこかの水平線か
そんな捉えようもない何かに沈む太陽は、
薄汚れた雲の積み重なる向こう側に
おそらく、
たぶん、
きっと、
あるはずだった。
耳たぶのような
冷たく柔らかな刃物で
何時間も切り刻まれた初夏が、
紫陽花の上に逃げ出した羽虫のように転がった。
湿った腋の下に緑色の傘を抱え、
乾いた喉の上に赤茶色のコーヒーを流し込む
帰宅途上の色のない難民は、
次の通勤電車にまとわりつく風に、
誰もが思い出そうとしない昨日。

Bonne journée, Photo

いま

今とはさっきまでの時間とこれからの時間の間に挟まれた隙間時間でもなければ、昨日と明日の間を過ごす今日から切り出された移り行く時間でもない。それは次の時を過ごすために過去となった時を振り返って準備している動き。止まらずに動いているから今という瞬間は捉えることも叶わないたった0の時間。その今の間隙に落ち込んでいく自分の居場所はどこにあるのか。そんな事を考えながら満員電車の吊り革を頼る。都会は今が多すぎる。

Bonne journée, Photo

canal

期待するように透明に輝くわけでもなく、
深緑に沈んだ底には何かを隠しているようで落ち着かないその水は、
長年にわたって内陸の街の物流を支えてきた
  流れようとしない川の生命の一部であって、
その傍らを歩く人はただその表面だけを見てきた。
生きるためのしがらみを取り去るために、
延々と続く恒例行事となった夏の休暇という時間を運ぶ運河として、
今となっては誰ひとり興味など持っていない水の行方を
  誰ひとり興味を持っていない誰かが管理する。
それでも深呼吸をするただそれだけのために歩き続ける。
携帯電話という道標にしがみつきながら。

Bonne journée, Cross Cultural

Sound of rain drops

201811-201

誰もがもう終わりだと言い出せないまま降り続く雨と
誰かが決心しないまますれ違い続けるいつもの朝とが
誰もが思い出そうとしない街の時計を動かし続ける

束の間の晴れ間に昨日まであった日陰を探す自分と
青くなった膝に張り付く湿った昨日を思い出す僕とが
前を歩く誰でもない誰かを追う私を動かし続ける

あなたが次に向かおうと歩き出した水溜りの歩道と
あなたが気にも留めない青色の驟雨を足急ぐ赤い傘とが
あなたに誰かが譲る道の向こうで私を待つ今日を動かし続ける

Bonne journée, Photo

虚ろな目

201807-111

肩から前に抱え込んだ通勤用のナイロンバッグが、
ウェブを虚ろに眺めながら空白の時間を埋めようと忙しく指を動かす右隣の腕をかすめ、
聞こえもしない小さな抗議を思い出したように身を縮めては、
ありもしないスマートフォンの向こう側に知らんぷりして逃げ帰る。
誰もが匿名である事を主張するIDは、
通りすぎるだけのダミー人形。
通勤電車の軋む金属音に顔をあげれば、
ガラスの向こう側に虚ろな目。
急ぎ目をそらす夜。

あまり支持されなかった前回を微修正してみたものの、むしろ中途半端に自分のスタイルになってしまったようで、少々歯がゆい。やっぱり文章は書き続けないと質が低下する。あまり得意でない写真でごまかす次第。その写真は本題とは無関係である。多分、恐らくは。