
紀貫之,『古今集』春・42
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける
春の歌であって、季節が正しくないことをまずは書いておかなければならない。よく知られた百人一首の歌だから、見るなり叱られそうである。ここで謳われているのは梅の花だそうだ。
分かっていて引用しているのには、多少は理由がある。
過去に”l.t.f.”という花に関する言葉を引用したシリーズをやっていて、その時にボツにしたネタだが、ファイルを整理したら偶然出てきたというのが直接の理由である。ボツにしたネタを再録するのは心苦しいが、読んでみたらちょっと違った感じ方をした。
最初の五七は「人はいさ心も知らず」だから、「あなたがどう感じているかわからないが」という妙なエクスキューズみたいなものである。少々皮肉っぽい感じもしないではない。
最後の七七は「花ぞむかしの香ににほひける」と、今の昔も変わらず漂う梅の香を懐かしく楽しんでいるのだろう。個人的にはあまり梅の香りに思い出もなく、沈丁花や金木犀の強烈な香りの方がかえって思い出深い。もっといえば、匂いなどほとんど感じない百日紅や夾竹桃に汗のような匂いが結びついている。夏の終わりになると、少し青臭い百日紅の鮮烈な夏色と湿った汗の匂いが「花ぞむかしの香」なのだ。
さて、写真は白いニチニチソウでは?と突っ込まれそうである。その通り、百日紅でも夾竹桃でもない。でも、ニチニチソウは、キョウチクトウ科なのだそうだ。太平洋の島々でレイに使われ、ラオスやインドでもポピュラーなプルメリアもキョウチクトウ科。ニチニチソウが夏の花なのは当然である。



