Bonne journée, Photo

Morning

201803-211

ゆっくりと漂うコーヒーの微かに甘い香りを今日ときっぱりと切り分ける冷え切った歩道を、今日に無関心な爪先を靄のかかったような曖昧な黒革で締め付ける紐靴で急ぐ朝。踏み降ろす爪先の1ミリ下で、整然と敷き詰められた灰色の四角いコンクリートブロックの隙間が不安に震え、昨日の埃っぽい倉庫で単調に動き続けた右腕に後生大事に抱える赤茶色のバッグを持ち直す。

すれ違う空色のジョガーパンツを身につけたポニーテールの誰かは今日の汗をかくにはまだ早く、いつもの変わらないピンク色のクルーネックのシャツはアイロンのかかった几帳面さで飛び去って、静かに甘い化合物だけが行き場を失う。どこにでもあるくすんだ青に誰かが塗りたくったごみ収集車は金属をかき回すディーゼルエンジンの音を裏通りに乱反射させ、無関心なヌイグルミ色の猫が反響する音の合間をゆっくりと通り抜ける。誰もが自分の時を急ぐ冷たい朝。

遠く駅の階段は今日を拒むように灰色のネクタイにつながれた人々を吐き出し、黒カバンを抱えた誰かを何事もなかったように平然と飲み込み続ける。不動産会社の無意味な文字を埋め込んだポケットティッシュを左手で探りあて、右手はバッグの底で捻じ曲がる。

1時間後には忘れ去られる紺色の場違いなブレザーが、だらしなく折れ曲がった紙袋をまさぐり、昨日と何も違いのないポケットティッシュを引っ張りだす。そのポケットティッシュを奪うように受け取ってカバンにしまい込むサラリーマンと、小走りにブレザーの男の横をすり抜けながらティッシュと空っぽのペットボトルを生垣に投げ込む高校生と、遠い猫の鳴き声。

誰もがなんの日だったかを忘れた昨日をなんでもない今日と隔て、春になってから7番目の大型客船が桟橋に横付けされた朝。一所懸命やって夢破れた誰かと微かなチャンスを掴みとった誰かが、どこでもない日常をすれ違う朝。

 

Bonne journée, Photo

To make crumbs of bread

201605-431English text at bottom

パン粉を作るなら、
乾いたパンを砕けばいい。
わずかな慰めを得たいなら、
今日の日を捻り上げ悲しみを昨日へと放り投げればいい。

新しいパンを焼くなら、
どこに行くのかなど思い巡らすことはない。
新しい一日を始めるなら、
自分のことなど何も気にする必要ないが、
疾風の声には耳を傾けよ。

それが人生。シンプルであれ。

To make crumbs of bread,
you simply crumble dry bread.
To make crumbs of comfort,
you simply crumple today up and throw sadness on yesterday.

To make a new bread,
you hardly need wondering where you go instead.
To make a brand new day,
you hardly do anything for you
but you have to listen to what gales of wind say.

That is the life, be simple.

201605-432

Bonne journée, Photo

A Bird Flies

201510-311

水鳥の羽音だけが冷たい朝に微かに舞い降りるオレンジの陽光を震わせ、遠い木々を反射する水面のざわめきに静寂を思い出す。湿った空気に目的を思い出し振り返るように一歩を踏み出す時、足元の落葉はカサカサとささやいて進む方向を指し示す。昨日の疲れた身体を思い出すことはない。息をすることがただ特別な時となる。

やがて広がる人のざわめきは、静寂など最初からなかったとでも言うように周囲を覆い尽くし、その時になってやっと次の新しい朝が始まった事を思い出す。両手のひらをボールのようにして降り注ぐ言葉を懸命に拾い上げようとしたのはもはや遠い記憶。今はただ落ちるに任せるのみ。見ぬふりをするためにヘッドホンでポッドキャストを聞き、避けるように人混みへと足を急ぐ。

気怠いエンジン音が空のどこかにぶら下がる。空の青はどこまでも深く、銀のビルは大地に根を下す。それでも鳥は自由な湾の空をめぐる。

When I sorted out pictures in my PC, I found this photo taken in Vancouver last year and it inspired me to write a prose poem. The text is so difficult to translate but you may find a small image of a bird with a seaplane. The bird looked free in bustle of the city.