Bonne journée, Photo

The winner


 先日、仕事をしながら音楽を聴いていたら、耳慣れたメロディが聴こえてきた。その軽快なボサノバは、まるで海辺のカクテルバーで開かれた瀟洒なパーティにでもいるようだった。話し声はがやがやと聞こえてくるが、決してうるさいほどでもなく、ピアノとベースとパーカッション程度のアコースティックなバンドが演奏する中を、ちょっとだけスノッブな匂いのするオシャレな会話を楽しむ。なんだか少しばかり鼻につくパーティではある。だんだん陽が傾き、水平線に太陽が沈み始める頃、最後まで残っていたサーファーも丘に上がり、浜辺は散歩の人くらいしかいなくなる。そんな静かな砂浜を見ながら、それぞれが思い思いに飲み物を飲み、会話する。ボサノバは明るく、時に寂しく、複雑な和音を繰り返す。コツコツというウッドブロックの響きが涼しげに聞こえ、まもなく庭のライトに火が灯る。

 以前、SoCalのそんなパーティーを楽しむ機会があったが、正直、あんなことを度々出来るような気がしない。確かにオシャレで会話も楽しかったし、ヤシの木の向こうに海を見ながらソファでくつろぐなんて、そうそう機会はない。でも、終わってみたらどっと疲れた。自分があまりセレブリティ向きじゃないななんて感じたのは、正直に告白しなければならない。

 なぜ、そんなイメージを持ったのかといえば、聞いた曲の軽快なメロディーに重なる、ちょっと重い歌詞に気がついたからだ。ボサノバアレンジのその曲には歌声は入っていなかったが、原曲を急に思い出したのだ。ABBAの”The winner takes it all”。邦題はウイナー。原曲のアレンジは、聞いたボサノバ版よりもアップテンポでキラキラしているが、結構影のある曲である。「勝者総取り」と言えばその通りなのだが、歌詞の意味からすると、「愛を勝ち取ったものは全てを奪い去る」くらいの意味である。確かに、「彼女は彼の7割だけど、彼の3割は私のもの」なんてことはない。1か0。そんな辛さが、瀟洒なパーティーの裏にありそうなイメージに繋がったのかも知れない。

 気になって、再度聞いてみたら、記憶以上に激しい曲だった。出だしはこうだ。

I don’t wanna talk
About things we’ve gone through
Though it’s hurting me
Now it’s history
話したくない、
過ぎ去ったことなんて。
傷ついたけれど、
今はもう昔話。

女性が彼を失ったことを淡々と語り始める。サビのところはまさにタイトル通り。

The winner takes it all
The loser’s standing small
Beside the victory
勝者が全てを手に入れる。
勝利の陰で、
敗者は小さくなって佇むの。

このあとは、彼の腕に抱かれながら、それを当たり前だと思っていたのは馬鹿だったみたいな自省的な歌詞が続く。そして、後半になるに従って、徐々に思いは激しくなる。氷の心を持った神様がサイコロを振って、下界の誰かが大切な人を失うなんてことまで言う。

But tell me, does she kiss
Like I used to kiss you?
Does it feel the same
When she calls your name?
でも教えて。
彼女は、私がしてたみたいにあなたにキスするの?
彼女があなたの名前を呼ぶ時、
同じ気持ちがするの?

 なかなかキツイ。そして最後には自分に言い聞かせるように諦める。取り乱してごめんなさいと。

 こんな激しい恋の歌だったのか。
 海辺のカクテルバーで開かれた瀟洒なパーティなんてイメージしたのは、軽快で時に物悲しいメロディーを素敵なボサノバアレンジにしたのを聞いたからであり、曲を思い出した時にもまだ、ちょっとセレブな感じもしていた。そういえば失恋の歌だったなんて、最初は、出だしの記憶しかなかったのだった。やがて、重い歌詞に気付き、徐々にイメージは変わって行く。
 そんな記憶が、きっと若い頃の追憶ってものなのだろう。

 どうしてこんなに色々記憶しているのだろうと思ったが、多分、マンマミーアである。ウエストエンドのミュージカルは観る機会がなかったが、映画の方は、何度か観た記憶がある。最後に見たのはさほど以前ではない。出張の長いフライトの中だった。
 オリジナルは、なんと1980年の曲だそうである。ABBA、すごい。

 せっかくだからエーゲ海の写真でも。

コメントを残す (Leave a comment)