Cross Cultural, Photo

Floral Friday #230


 暑いのが苦手である。湿気が苦手である。関東の夏は苦手である。でも、北関東生まれなのである。
 子供の頃、7月の夏祭りに連れられて鄙びた夜の街をあるき、陽気なお囃子と朱に滲む提灯のあかりを反芻しながら家に戻る帰り道、スーッと飛ぶ蛍の檸檬色のような光に思わず手を伸ばした。手に持っていた団扇に蛍があたり、大人たちがあらあらと言いながら捕まえてくれたその蛍は、蚊帳の中でしばらく光っていた。雨戸を開け放ち、戸締りなど無縁な田舎の古屋で、涼しい風を感じながら眠りに落ちたのは、今思えばまだ9時くらいの早い時間だった。大人たちは、それから瓶ビールなどを飲みながら、きっと遅くまで起きていたのだ。
 少し後になって、自分は中学生になり、体育館で夕方の部活動をしていた時だった。雷雨になるなとは分かっていたが、その日は不意に強烈な雷がなって、程なく先生が慌てたように体育館から出るなと言いにきた。校舎までの渡り廊下は通ってはいけないと。確かに5分後には強風が吹き始め、やがて豪雨が渡り廊下を洗い始めた。雷はますます激しくなり、開け放っていた体育館のドアからも霧のような水が飛び散るように入ってくるようになった。北関東生まれの北関東育ちだったからそんなことには無頓着だった。いつもの夏の雷雨。近所の神社の御神木が燃えたこともあった。30分もすれば雨も小降りになって、涼しい渡り廊下を歩いて校舎に戻ったのだった。体育館の横には、芙蓉だったか木槿だったか記憶が定かでないが、ハイビスカスのような南国風の花が咲いていた。
 いつからか、その涼しい夏の感覚が思い出せなくなっている。さて、どうしたものか。