Bonne journée

Bonne journée (6)

金木犀の輝く匂いはいつも不意である。秋のある日、突然に周囲を甘い香りで包み込み、気が付けば路面をオレンジに染め、そして何事もなかったように元のように戻る。それは、あたかも、夏の朝に窓を開けて気付く霧のようでもあり、夕暮れに一瞬見える黄金色の水面のようでもある。いつか必ずやってくるのに、その甘い香りに驚き、それが数日だけ許された秋の楽しみとわかっていても、再び通った金木犀の下でもはや香りがしないことに再び驚く。何よりも、ざくろの赤い実の自己主張しない秋にふと気付く時、もはや金木犀の香りを忘れているのである。

気の早い街角のショーウィンドゥは、自己主張の強いかぼちゃを早々に片付け、クリスマスのイルミネーションの準備に忙しい。コートの襟を立てるにはまだ早いが、店先には所々雪である。気が早いのか、秋は通り過ぎるだけなのか、それとも南半球と北半球が入れ替わったのか、とりあえず輝く秋はまだこれからである。