Art, Bonne journée

波打つ昨日

実直にまっすぐ張られた架線と
波打つスレート屋根との隙間を
ゆったりと流れる雲と雲の間に、
冷たく銀色に冷えた夕暮れ時の月を見つけ、
雨と曇りの合間に忘れられた晴れを思い出した。
もうまもなく
地球上のどこかの水平線か
そんな捉えようもない何かに沈む太陽は、
薄汚れた雲の積み重なる向こう側に
おそらく、
たぶん、
きっと、
あるはずだった。
耳たぶのような
冷たく柔らかな刃物で
何時間も切り刻まれた初夏が、
紫陽花の上に逃げ出した羽虫のように転がった。
湿った腋の下に緑色の傘を抱え、
乾いた喉の上に赤茶色のコーヒーを流し込む
帰宅途上の色のない難民は、
次の通勤電車にまとわりつく風に、
誰もが思い出そうとしない昨日。

3 thoughts on “波打つ昨日”

    1. ほんとうに、そうですね。Nelkumiさんもどうか少しでも良い日々をお過ごしください。

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