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パン・ド・ボワ

 この季節になると、大西洋岸を流れる暖流からの湿った空気が気まぐれで暖かな雨をもたらし、少しでも日差しがあれば外に出て太陽を見たくなる。一日中降り続くわけでもなく、グレーの雲の隙間にはわずかに青みがかった乾いた空のかけらも見え隠れする。だから、買い物には邪魔な傘を嫌々さして出かけてばかりというわけでもない。小さな折り畳み傘をバッグに無理やり詰め込んでみたりはするものの、大抵はコートの襟を立てて雨を凌ぐ程度である。街中を歩いていて雨が降り出せば、小さな軒下の雨のあまり当たらない隙間に体を押し込み、ショーウィンドウでも眺めながら雨が弱まるのを待つだけである。買ったばかりのバゲットが雨にあまり濡れないようにと脇に抱え込むのは、案外多数派でもない。

 パリからTGVで2時間ちょっとのフランスの西の果てにあるブルターニュには、中世から続く木組の建造物がたくさん残っている。木材で細かく骨組みを作った後で木材の間を土や石で埋めるハーフティンバー構造であり、フランス語ではパン・ド・ボワ(Pans de bois)などと呼ぶ。直訳すれば木枠構造だろうか。屋根や一部の壁にはスレートが使われ、細かな冬の雨をしのぐには優れた形式なのだろう。2階と1階(フランスでは1階と地上階)には時には僅かな大きさのズレがあって、2階の方が少し道路に張り出している。多少の雨ならこの出っ張りの下でやり過ごすこともできるから、自然とそんな作りになったのかもしれない。上越などにもある雁木と発想は同じであっても不思議ではない。もっとも、一説には土地の面積で決められた税金を少しでも安く済ませるためとか、下水がずっとなかったため窓から汚物を捨てていたのを通りを歩く人が避けるためとか、あまり楽しくない話もないではない。

 流石に16世紀の建築物を維持するのは容易ではない。それでも法的には外観の変更を許していない。内部の構造物も同じ形で補強する以外は認められない。壊れたからと言って直すには許可が必要である。19世紀以降の建築物でも簡単に許可が出ないそうだから、補修には時間もお金もかかることになる。それでもそこには誰かが住み、少しずつ住みやすいように改造しながら受け継がれていく。明らかに傾いた床も、慣れればなんとか住めるそうである。そう言いながら数年そこに住んだ知人は、やっぱり辛いと郊外に引っ越して行ったのだが。