Bonne journée, Cross Cultural

Quick Lunch (1)

201806-211(This article was written in Japanese)

数年ぶりにペンキを塗りかえたように妙にテカテカと床のコンクリートを反射するカウンターは、ファストフード店としては幾分背が高く、これといって装飾も注文のヒントにでもなるような写真も見当たらず、店員はただその向こうを右に左に忙しそうに動き回っていた。その店員と客を隔てるカウンターのこちら側で、遅い昼食を少しでも簡単に美味しく摂ろうと、文字ばかりのメニューを睨んでいたのだった。赤地に白のうわべだけポップな文字だけでは、それがどんなものなのか想像が難しい。
仕事での行き先と言えば洗練された都市部がほとんどだから海外出張で食事に困った経験はないが、どう注文したら食べたいものが手に入るかわからず、店員に聞くのは毎度のことである。これがスノッブなレストランなら、食材や調理方法もきっちり黒できめたムッシューが、時に恭しく時に気取って説明してくれるのだろうが、地元の金のないやつが時間を潰しに来るような店では期待できるはずもない。ちょっとおしゃれな値段高めの店であっても所詮はファストフード。手っ取り早く食事するのが目的だから、あまり多くは期待できない。うーんと悩んでいると「こんにちは」とひと言だけは言ってくれたが、大量に並んだ肉と味付けのリストを見ても想像がつかないことには変わらない。仕方なく聞く。
「そのサーモンは辛いの?」
愚問である。しっかりHOTと書いてあるのだか辛いに決まっている。知りたいのは「辛いサーモン」がどんなもので、どんな形で供されるかだ。バーガー屋(と言うかサンドウィッチ屋)なのだから、パンにレタスと辛い味付けのサーモンが挟まっているのだろう。辺りを見回せば近くにほとんど客はいない。唯一近くの席で遅い昼食をとっていると思しき赤いブラウスのスレンダーな女性の前には、どう見てもバンズなどのかけらもない巨大なサラダがあって、全部平らげる頃には夕食になりそうなほどゆっくりとそれをつついている。仕方ないのでボローニャソーセージよりは面白そうなその「辛いサーモン」を頼むことにした。
「で、どのパンにする?」
店員は足元の方を指で示す。気がつけばカウンター下のショーケースには4種類のパンがディスプレイされている。一瞥してブルーチーズを選んだものの、サーモンと合うのかどうかそもそも想像しようもない。
「ハーフサイズでいい?」
もちろん良い。巨大な事は分かっている。隣り合ったカナダはそうでもないのに、カリフォルニアのサイズはまともではない。ひょっとしたら逆に喰われるのではないかと不安になる。
結局はよくわからないままオーダーし、そうやってスリリングな最初の一口を楽しむのがいつもの習わしなのである。フランスあたりで言葉が通じないままタジンなど食べに行こうものなら、通じない会話を楽しみ、予想外の味にワクワクする以外にない。いくらか想像できるだけファストフードは気楽である。
さて、建物から出て(建物の中にあるのはカウンターと先程のサラダに取り掛かる人がいるカウンターだけだ)、外の馬鹿みたいに背の高いカウンターにようやくとまりながら、その怪しいサーモンを待つ。番号札は52番である。この際、何番でも良いのだが、ランダムに渡しているに違いない。見渡せば番号はバラバラである。屋根の代わりに波打ったプラスチックの板が据え付けられ、強烈な日差しが明るくカウンターを照らす。すぐ向こうには歩道と裏通りがあるが、カウンターとその道を隔てるのは透明な厚手のビニールだけである。天気が良いのだから仕切りなど要らなそうだが、その向こう側は寒流からの冷たい風が吹いている。カウンター席はTシャツでも寒くはないが、ビニールの囲いをはずして風が当たれば長袖シャツが欲しくなる。歩道にはみ出したその内とも外ともつかない空間は、大急ぎで遅い昼食をとって仕事に戻るには最適な空間であった。

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待つと言うほど待つこともなく、そのサンドウィッチはやってきた。予想通り、ハーフサイズでもいつもの日本サイズの倍はある。あとは味がまともである事を祈るばかりである。なにせ、昼休みなどとっくに終わって、できるだけ早く会議に戻らなければならないのである。食べやすい味だと有難い。ふと気付けば、一緒に食べに来たフィンランド人はハーフではなくレギュラーサイズである。こんな量を食べられるのかと聞きたくなったが、やめておく。食べられるのだ。人のことなど気にせず、真剣に食事に向き合うべき時が来たのだ。
そうは言っても心の準備と言うものがある。ひょっとすると巷では作法と呼んでいるかもしれない。先ずは、オマケのポテトチップを食して様子を伺うべきである。その間にさっと周囲を見渡す。かのフィンランド人は、すでに1/4を平らげつつあった。

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巨大なサンドウィッチを両手にとって、口をめいっぱい開き、後悔などないとばかりに辛いサーモンサンドに食らいついた。食いちぎられた手の中にサンドウィッチは、思いのほか小さくならず、口の中にはトロッとしたアボカドの風味が広がった。そこにはサーモンも何もない。もう一口。やがてチリの辛さとブルーチーズの刺激をアボカドが包みこむ中に、サーモンらしい味が加わって来た。スモークターキーにでもしておけば良かった。そう思うまではあっという間だったが、なかなか経験しない不思議な味も悪くはない。これを旅の醍醐味と言うか否かは人それぞれである。
さて、その不思議な味を半分まで楽しんだところで周囲を見渡せば、フィンランド人はとうにレギュラーサイズを平らげ、同僚は巨大なスムージーと戦っているところだった。どうやらとっとと食事を終えて会議に戻らざる得ない。そう観念すると、食事も不思議と捗った。日本人は食べるのが速いなど、だれが言ったのか。
そもそもフランス人がゆっくりと食べるなど単なる思い込みである。確かに星のつきそうなお洒落なオーベルジュで、大切な誰かと年に幾度もないディナーを楽しむなら別である。ランチだって良い。新しい仕事のパートナーと親交を深めるためにフルコースの食事をゆったりととりながら、アイデアを相談するのもあるだろう。だが、社員食堂でさっとお昼御飯を食べるだけなら時間はかけない。それどころか、家から持ってきたタッパー詰のパスタをさっとつついて食事は終わり。そそくさと車の屋根から自転車を下ろして走りに行ってしまうなど、食事に頓着しないようにすら見える。時と場合を使い分けているのだろう。
結果、フィンランド人とフランス人が巨大サンドウィッチを平らげ、Nokiaのケータイがどうのこうのと盛り上がっていた頃、自分はといえば、ようやく半分を超えてチリ風味のソースがHOTの意味だったのだと悟ったところだった。(続く)

最近はすっかり書くのを忘れていたcross cultural な話を、久しぶり書いたらすっかり長くなってしまったので、今回は前後編に分けることにした。来週もお付き合いいただければ幸いである。

 

5 thoughts on “Quick Lunch (1)”

    1. ありがとうございます。いつも異文化にやられっぱなしの愚痴に時々共感をいただいてます 😉

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