フランス料理と言うとワインやフォアグラなどが真っ先に思い浮かぶところだろう。あるいはブイヤベースのような名物料理かもしれないし、オマール海老やトリュフといった海や山の食材かもしれない。個人的には、チーズやオリーブオイルもイメージが強い。だが、実際のところ、日本でも地域によって味が違うように、フランスでくくるのは少々乱暴である。どもそもドイツワイン好きがいたり、チーズはスイスだとかオランダだとかと言って譲らない人がいるように、ヨーロッパは広い地域に同じ素材が緩やかに広がっていて、それぞれに特徴がある。
遠く日本にいてフランスを思うと、ヨーロッパの西の方と十把一絡げにしてしまうのは致し方ないところだろう。フランス人が日本を見て中国の右のあたりとイメージするのと同じである。それを聞いて腹を立てるひともいるだろうが、フランス人も同じ気持ちに違いない。あるブルターニュの人が、日本人から
「ああ、ワインが美味しいところですよね。」
と言われてがっかりしたと聞いたことがあるが、気持ちがわからないでもない。確かにブルターニュとブルゴーニュの場所を地図で示せと言われても平均的な日本人には難しい。それでも、川崎に住む人が
「ああ、バイクを作ってる街ですね。」
と言われたり、鎌倉に住む人が
「行ったことがあります。鹿のたくさんいる公園があるところですよね。」
と言われたりすれば、がっかりするに違いない。
ブルターニュとブルゴーニュの緯度はあまり変わらないが、ブルターニュは少しだけ寒くワイン作りは盛んではない。むしろ、シードル(Cidre)で知られている。もちろん、そこで知ったかぶりして、
「カルバドスは美味しいですね。」
と言ってはならない。カルバドス(Calvados)はとなりのノルマンジー産である。
同様にオリーブオイルも南部の食材だ。そもそも、オリーブは地中海沿岸一帯に広がる農作物であって、イタリアやスペインはもとより中東やアフリカでも作られており、ギリシャやトルコでの生産が盛んだそうだ。だが、フランスでオリーブオイルの生産が盛んだからと言って、やはり北部では作られていない。フランスのお土産にオリーブオイルを買おうと思えば、南部産ということになる。
このオリーブオイル、フランス人にとっては日本人の醤油みたいなところがある。調味料として好きな銘柄を使う。銘柄で味も香りも違うから、好みで選ぶということらしい。その点では味噌のほうが近いかもしれない。はやめに摘んだ青い味もあれば、癖のない柔らかな味もある。淡い緑を加えた琥珀色の液体は、何にでも使える万能調味料といったところだろう。
フランス料理店 ー つまりは、日本であれば和食料理屋 ー のオーナーシェフがプロバンスあたりの出身で、生まれ育った故郷の味にこだわりがあったりすると、レストランで使うオリーブオイルがその故郷の銘柄ということもある。そんなあたりも和食料亭と違いはない。老舗の銘柄があるのも同じである。ピーターメイルのエッセイに出てくるアルジアリ(Nicols ALZIARI)はそんな名店のひとつなのだろう。こぢんまりとした店構えは特段有名店とも思えないが、遠くからも買いにくるそうだ。南仏きってのリゾート地ニースの海岸線から一本奥に入った旧市街へ続く道にあるその店舗は、あえて例えるなら漬物屋さんのようでもある。確かに賑やかなプロムナード・デ・ザングレの端、南国を感じる木々が揺らぐアルベール1世公園から直ぐであり、漬物屋さんと言うにはあまりに洗練された環境ではある。それでも、オリーブはフランス人にとっては身近な食材であって、日本人が抱くおしゃれな感覚とは明らかに違う。その違いが文化なのだろうと思うのである。
先日、知人からいただいたオリーブオイルは、バジルの風味がつけられたものだった。イタリアンのレストランでは唐辛子のオイルが出てくることもある。その点でも、オリーブオイルとひとくくりにするのは、少々乱暴である。お土産に買うなら、できれば味見をしてから買った方がいい。
そんなわけで、オリーブオイルの味付けが美味しかったレストランで、使っているオリーブオイルを売ってくれるというので買ってきた。若い味のする個性の強いオイルである。
このオイルは、ワインと同じ方法でボトリングされていた。つまり、ガラスの瓶にコルクの栓がしてあった。もちろん、ワインとは違って寝かして保存するわけではないからだろう、ロウでしっかりと封印されている。分厚いロウは手強く、簡単には開けられない。薄い場合は直接コルクスクリューを突き刺せば開けられるそうだが、とても刺さるような厚みではないし、刺さっても抜けそうにはない。折角買ってきたのに使いたい時にすぐに使えないのでは意味がない。覚悟を決めてロウを削ることにした。とっておいてもオリーブオイルは傷むだけである。しかして、フランスから担いで持って帰ってきただけのことはあった。青いオリーブオイルが食卓で強い個性を放つこととなった。
どうやって開けたか。その様子は、また、機会があれば。

