Bonne journée

あずき色の宇宙


あずき色の宇宙から湿った明日の予定が流れ落ち続け
首筋のすぐ後ろにある真っ黒な夜が
赤と緑のカラカラした音を立てて
今日の灰色のざわめきを追いやっていた。
消防車の通り抜けた交差点は遠い電磁波のように溶け落ち
額の上にのしかかった鋭利な夜が
定規で引いた硬い線を引き裂き
今日の冷たい机の汚れを消し去ろうとしていた。

目に見えないほど小さな星に向かう宇宙船が焔を放ち続け
こめかみを揺らす青白いエンジンが
ありもしないぶつぶつとした音を呻めいて
冷蔵庫に残された食べかけのパンを思い出させた。
すれ違う隣の住人のミニヴァンはまもなく記憶から抜け落ち
踵に張り付いた小さなマメの鈍い痛みが
受け取ってもいない手紙の予定を消し去り
忘れかけた日常の中の特別でもない明日を呼び出した。

またやって来る今日と同じ明日を
また温める昨日と同じシチューを
また繰り返す明日と同じ今日の夢を
いつのまにか思い出す帰路。
背中のリュックから取り出す冷たい鍵の朧げな回転と
ポケットから取り出す生暖かいスマートフォンの凍った光と
暗闇で見えなくなった郵便受けから探し出す空っぽの空気と
いつの間にか点いた玄関の灯り。

「また独りよがりな詩をアップしてるの?」と呆れられそうだが、ビョーキみたいなものなのだ。病気ではなくビョーキ。この違いを強調しているあたりを斟酌してくださると嬉しい。

 たまには作者の解説。

 仕事の帰り途に思うことはふたつあって、なんとなくモヤモヤした仕事の引っかかりのような気分がそのひとつである。あれって、こうしたほうが良かったかな?なんて反省するならまだ良い方で、しなきゃ良かったかな?と後悔するようになると気分が落ち込んでくる。もう帰るだけだというのに、「引きずっている」状況なわけだ。良いことだって沢山あったのに、案外思い出すことはない。

 もうひとつのことは帰った後のことで、何ひとつ心配することもないのに、もう明日のことを考えている。温かな食事とか、リラックスして家族と過ごす時間とか、楽しみが沢山あるだろうに、不思議とその先まで考える。どうしてだろうと考えると、きっと繰り返される日常に何か重さのようなものを感じているのかななんて思い当たるが、定かではない。

 ただ明確なのは、特に秋から冬にかけて、暗いうちに仕事に向かい暗くなって家に帰る毎日が、まるで宇宙船に乗って漂う無限の旅のように感じることがあると言うことだ。

 

3 thoughts on “あずき色の宇宙”

  1. この作品は、鮮やかなイメージと日常の感覚を織り交ぜ、仕事から帰宅する体験を、現実と想像が交錯する詩として捉えています。寒さ、物、音、日常といった日々の些細な出来事が、まるで宇宙的な時間と空間の感覚と絡み合い、まるで毎日が宇宙船に乗って、馴染み深くも奇妙な宇宙を旅しているかのようです。

    中心となるメッセージは、日常生活の二面性を反映しています。たとえ日常的な出来事、疲労、不安に苛まれる瞬間であっても、日常やささやかな儀式の中にも美しさが宿っているのです。作者は最後に、これは病気ではなく内省的な観察であり、「美氣」(創造的狂気)であると説明し、日々の生活を注意深く、詩的な感性で味わうことの大切さを強調しています。

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